夏の幽霊



壁と同じ、白く冷たい床に大小様々な正方形の浅い穴が掘られ、そこには、驚くほど透明な水が張ってあった

その水の上には、桃色と白のグラデーションの美しい蓮の花が咲いていた

根はなく、ただ浮かんでいるだけのように見える、その花弁や、目が覚めるほどに濃い緑の葉が一緒に浮かんでいる


みたところ、甘い花の香りの正体は、この花のようだ


チヨは、床の上に置かれた飛び石のようなものの上を歩いていく

その行く先にあるのは、大きな寝台だった


水色の薄い布を何重にも重ねた布が垂れ下がり、その間から、白くてふわふわした何かが見える


あれは、なんだろう



「睡蓮、来たぞ」


チヨが、あたかも友人のように話しかける


『ん?その声は、チヨかね?』


なかから、んー、と伸びをする声が聞こえたかと思うと、そのように返答が返って来た



どうやら今まで眠っていたようだ、その声は、暗い水の底のように深く、それでいて、雨の音のように軽かった

そんな不思議で、とても綺麗な声



「私じゃなかったら誰がこの部屋まで来れる、それにしても、やけに真新しくなったな」


『ふふっ、つい先日、模様替えをしてのぅ、いい加減、畳と障子は飽きたのじゃ』


「そうか」



布越しでの会話は、弾んでいた

ただ、僕だけが、置いていかれている


しゅるっ


布の半分がめくれ上がり、なかから人が出て来た


いや、正確には人ではない


真っ白い純白の髪に生えているのは、同じ色をした狐の耳


白と青を基調にした重ね着の着物をまとい、その、ほっそりとした腰の部分からふわふわした大きな尻尾がざっと数えて10本以上生えている



ただ一つ言えること、尻尾があっても耳があってもその妖は、目を疑うほど美しかった