夏の幽霊






『ダレモキミヲシンジナイ』


ひやりとした空気があたりを包み込む

いつの間にか子供の声は消えていた


その代わりに、あの甘い声が複雑に反響して、響き渡る



『デモ、ボクハ、ワタシハ、オレハ、キミヲシンジテル、シンジテル』



怖い



こんな恐怖、いままで味わったことがあっただろうか


いや、ある



昔に、妖に捕まったんだ

その妖もこんな声をしていた




『ヒトリボッチ、カワイソウ』



低い声と高い声が入り混じり、不思議な深みのある声



そうだ、こいつは




「『ダカラ、ワタシトアソボウ?』」




思い出した


こいつは、昔、話し相手をしていた妖だ

人間だと思っていて、妖だと気づいた時には、半分殺されかけていた



背筋にひやりと汗が流れ
頭が急速に周り出す


あたりをみようと顔を上げるが、目に入ったのは、一面の鏡と



僕の後ろにいる妖




しゃがみこんだ僕を覗き込むように不自然なほど体を傾け覆い被さるようにその妖はいた



ひゅっ



喉が短く鳴った

悲鳴をあげるところだった


いうことを聞かない膝に力を入れて立ち上がる


流れものたちが、鏡の壁にくっついて、行く道を照らしてくれていた



『アソボォォォォォォ』



妖が叫び声をあげた瞬間、僕は走り出した



「はぁっはぁっ」


『マッテヨォォォォォォォォォ』



息を切らして、足を前に出す

後ろに聞こえる声はだんだんと小さくなって行く




それでも僕は歩調を緩めない

足が限界に近づいたところで、扉らしきものが見えてきた

震える指でドアノブに手をかけ一気に引く



体が完全に入り、扉を閉める



『.......オイテイカナイデ』



「えっ?」


扉が完全に閉まる一瞬前

さっきの妖の声が小さく響いた



その声は、悲しんでいるように聞こえた

切ないように響いた