少し軽率かなと思いながらもそう言い、瀬奈は唇を結んだ。
「判った。待ってる」
瀬奈のその言葉に安心したのか、そう呟いて電話が切れる。瀬奈はゆっくり携帯電話を閉じながら。結んでいた唇を噛んだ。
――快。
眠気はすっかり消え失せ、代わりに大きな不安が胸に巣くっている。
何があったのだろう。
面会時間ギリギリまで側にいて別れたのが今から約五時間前。九時には消灯したはずだが、一体何があったのだろう?
閉じた携帯電話を見つめながらゆらりと瞳を動かす。明日、退院は無理かもしれないが、外泊は可能かもしれない。
病院のそういう仕組みについて詳しくは判らないが、なるべく快の要望を叶えられるよう努力しようと、電気を消し、ベッドに戻りなたら瀬奈は思った。しかし、完全に目が覚めてしまった為、すぐには眠れそうになかった。だが、朝に備え、少しでも眠っておこうと無理矢理目を閉じた。
――明日は、大変な一日になるかもしれない……。
ベッドの中で、快はしっかりと目を開け、天井を凝視していた。
――苛々する。
もうとうに消灯は過ぎていて、病室内は静寂に包まれている。聞こえると言えば同室患者の小さないびきくらいだが、快はどうしても眠る事ができず、寝返りを繰り返していた。
――入院なんてするんじゃなかった……。
病院なので、それなりに環境も整っているだろうと期待して入院してみたが、自宅にいるより落ち着かない。
まず、テレビ等の音を聞くだけでも疲れるのに、それをきちんと主治医の石崎にも伝えたのに、病室は談話室の隣で、消灯間近までテレビや人の話し声が聞こえてくる。
――全然駄目じゃん。
一夜目にして入院した事を深く後悔しながら、ひとまず朝までは頑張ろうと、快は力なく瞼を下げた。
『じゃ、入院しましょうか』
一週間前、定期受診の際に入院したい意向を石崎に伝えた快。どんな答えが返ってくるのか少し構えていたが、石崎はあっさり快の要望を快諾した。
――俺の病気、本当にここで治るのかな……。
不安が頭をよぎり、眠気を更に遠ざける。しかし、現在のところ、他に当てもない。
――早く家に帰りたい……。
朝まではまだかなりある。快は大きくため息をつくと、布団を被った。
七時半を回った頃に瀬奈が息を切らしながら快の病室を訪れると、快はすっかり帰宅する準備を整え、彼女を待っていた。