慣れぬ大部屋、家とは違う、プライバシーが定かじゃない空間。

 落ち着かない……。

 側に瀬奈の気配を感じながら、快は目を閉じた。瀬奈はそんな快をじっと見つめている。

 結奈は密葬で送られたが、愛美の強い拒否で、瀬奈は参列できなかった。密葬には紗織と耕助だけが参列し、結局瀬奈は、最後のお別れをする事ができなかった。

「何か、買って来ようか?」

「ううん」

 瀬奈の申し出を短く断り、代わりにそっと彼女の手を握る。温かい手に触れながら、快は静かに自分を責めた。

 ――俺、お前に何もしてやれない……。恋人なのに、お前を支えてやれない……。いつも、してもらうばかり……。

 太陽がゆっくりと西に傾き、地平線に消えて行く。オレンジ色から紫へと変わる、カーテンに仕切られた小さな空間で、二人はいつまでも、手を握り合っていた。