「瀬奈の母親。……産みの」
「え……?」
愛美の言葉に紗織が目を見開いた。「瀬奈ちゃんの……母親?」
目を見開いたまま紗織は写真と愛美を交互に見た。写真には瀬奈と同じ茶色の髪をした、瀬奈とあまり変わらない感じの、どことなく雰囲気の似た若い女性が写っていた。
「どこ行く?」
快がうつ病を発症する前によく二人で行っていたカフェでコーヒーを飲みながら、瀬奈が訊く。
「ん……」快はカップを口に運んだまま、感情のこもらぬ声で短く返事した。
店内には春休みの学生や若者が多く、瀬奈はその人の多さが少し心配だったが、快はあまり気にならない様子でコーヒーを飲んでいる。
「ね、平気?」
恐る恐る尋ねる瀬奈に、快はゆっくりうなずいた。
「うん、今日は大丈夫」
「そう」
快の返答に瀬奈も安心したようにうなずく。何だか今日はとても穏やかな空気が、二人の間を漂っている。
窓から見える桜並木の枝は、蕾がピンクに色付き、膨らんでいる。
「ここは俺が払うよ」
ぼんやり外を眺めている瀬奈に、突然快が言った。
「え……」
二人のデートはいつも割り勘なので、瀬奈が驚いた顔をすると、快は少し照れたように横を向き、彼女の視線から逃げた。
「卒業祝いと……就職祝い」
「あ……ありがとう」
快の言葉に瀬奈が少しぎこちなく礼を言う。
今日で卒業式から半月が経つ。本来なら共に卒業していたはずの快は休学中で留年が決まり、かつ、普通科から通信課程へと編入していた。
――あたしだけ……ごめんね。
決して口には出さないが、そう思う。すると、横を向いていた快が彼女に視線を戻した。
「入院……しようかって思ってる」
いきなりの言葉に、瀬奈はまた驚いた。「入院……?」
訊き返した瀬奈に、快はゆっくりうなずいた。
「瀬奈は……わたしの娘じゃないんです」
愛美のその言葉に、紗織は面食らっていた。
「えっと、あの……」