「ねえ菖蒲、あたし、また嫌われちゃったのかな」

 席について授業の準備をしながら瀬奈が言った。「あたし、また何かやっちゃったのかな……」

「何か……思い当たるの? 神童くんには訊いた?」

「訊いた。"その気になれない"って言われた。最近はいつ行っても寝てるんだ」

「そういえば学校来ても、いつのまにかいなくなっちゃってるよね」

「……うん」

 菖蒲と会話しながら、瀬奈はここ二週間の快の様子を思い返してみた。食欲不振、痩せ、突然なくなったセックス……。

「何か……あるのかも」

 冷静に記憶を辿り、独り言のように呟く。

 ――ネットで調べてみよう。

「ありがと菖蒲、話、聞いてくれて」

 始業ベルが鳴り出す。瀬奈はそう言うと、急いで教科書を出した。



「快」

 その日、部活を休み、図書室で調べ物をした瀬奈が快の部屋に行くと、やはり彼は横になっていた。

「瀬奈……」

 瀬奈の訪問に快が首だけ動かし、彼女を見る。瀬奈は快のベッドに駆け寄ると、心配そうに彼を見た。

「遅くなってごめん、ちょっと、調べ物してて……」

 瀬奈の言葉に快は返事をしない。瀬奈は快の手を握り、言った。

「年齢的にはまだ、ありえないんだけど……快の症状って、"更年期障害"じゃないかな?」

「更年期障害……?」

 瀬奈の言葉に快は怪訝な表情で彼女を見た。

「それって……女にあるもんだろ?」

「最近は男にもあるんだって。しかも若年層にも。ネットで調べたの。食欲不振にそれに伴う急な体重減少、それから……性欲減退。快に当てはまるでしょ?」

 "性欲減退"の部分はかなり言いにくそうに瀬奈が告げると、快は少し考え込む素振りを見せた。

「そう……なのかな」

 原因が何か判らないが、快自身、自分の中で"何か"が起き、体が狂い始めている事だけは判っていた。

「一度、精神科か心療内科。どっちか判らないけど、行ってみたら?」

 瀬奈の言葉に、快は黙ってうなずいた。