城ヶ崎家の玄関。インターフォンのボタンからゆっくり指を離し、快は白い息を吐き出した。
――どこ……行ったんだよ。
さっきから何度もインターフォンを鳴らしているが瀬奈は出て来ない。電気も点かないし、ドアも窓も、鍵がかかっていて開かない。
どこに……いるんだよ。
いくら待ってみても、家の中に人の気配は感じられない。
「な……んだよ」
快の唇から、再びかすれた声が漏れた。
「どこ……行ってんだよ……」
"瀬奈がいない"という現実が重すぎて、思考能力が全く働かない。
――瀬奈。
いつも側にいた瀬奈が、家にいない。電話もメールもない。
「何……やってんだ……よ」
途切れる途切れに漏れるかすれた言葉。
瀬奈がいない。
誰もいない城ヶ崎家の玄関の前にうずくまり、快は膝を抱え、寒さに体を震わせた。
――何でいね~んだよ!!
『あたしが側にいるから』
いつかの瀬奈の言葉が蘇り、憤りと絶望が襲い掛かる。
"今日は来てくれる――。"朝から勝手にそう思い込んでいた。今日は顔を見せてくれると、何の約束もしていないのに、朝からずっと待っていた。
――いない……。
冷たい夜風が容赦なく快の体温を奪う。快はうなだれ、体を縮めた。
昼には来る、夕方には来る、夜には来る――。
そう思いながらずっと待っていたが、電話一本、メール一通すらなく、無情に時が過ぎ、未だに連絡一つない。
「う……」
"絶望"という大きな闇が、快をゆっくり飲み込んでゆく。
――瀬奈が……側にいない。
今まで感じた事のない"距離"を瀬奈との間に感じ、打ちひしがれる。月のない真っ暗な住宅地に漏れる、周囲の家々からの暖かな光。
動けねー……。
現実に押しつぶされ、体が更に重くなる。
寒い……。
快は瞳を閉じ、玄関ドアにだらしなく背中をもたせかけ、長い手足を投げ出した。
自転車のライトだろうか、遠くから小さな灯が近付いてくる。と、次の瞬間、その灯が急速に快に近付き、顔を眩しく照らした。