何となく腑に落ちないものの、相手は人間の身体を診る"プロ"である。快は薬を鞄に入れるとその日は学校を休み、自宅に戻った。



 その頃、まだ誰もいないグラウンドを眺めながら、瀬奈は一人、快の事を考えていた。

 ――どうしちゃったんだろう。

 さっきから携帯電話を握り締めているが連絡がこない。

 ――こっちからかけてみるか。

 快が今日、内科に行っているのは知っている。時間的に、午前中の診察時間は終了しているはずだった。結果を教えてくれるかもしれないと、一縷の望みをかけ、携帯電話を手に屋上に来たが、電話は鳴らない。仕方なく、自分から快に電話をかけた。

「……もしもし」

 呼び出し音がし、すぐに快が出る。

「快」

 瀬奈は側のベンチに座り、携帯電話をしっかりと耳に当てた。

「病院どーだった?」

 ストレートに本題から入る。

「……ん、薬、出た」

「薬?」

「うん」

「……大丈夫?」

「……うん」

 快は最近、食欲だけじゃなく、口数も減っている。瀬奈は数少ない快の言葉から必死に彼の心理を読み取ろうと、耳に神経を集中させた。

「学校終わったら寄るね」

「……うん」

 昼休みが終わりに近付いている。瀬奈は電話を切ると立ち上がった。

「瀬奈」

 教室に戻ると、親友の望月菖蒲(もちづきあやめ)が声をかけてきた。

「神童くんに電話?」

「うん」

「彼、どうなの?」

「ん……」

 菖蒲の問いに瀬奈は言葉を濁した。菖蒲とは高校からの付き合いだが、"波長"が合うのか、すぐに仲良くなり、互いに悩みや恋バナで毎日盛り上がっている。快の様子がおかしい事ももちろん、瀬奈は彼女に話していた。

「最初の異変から今日でどれくらいだっけ?」

「二週間……くらいかな」

「二週間……か。で、えっと、あの……」

「エッチ?」

 どう言おうか困惑する菖蒲に、瀬奈がはっきりと口にする。菖蒲は苦笑し、うなずいた。

「全然してない。キスも」

「そっか」

 瀬奈の言葉に菖蒲は口をつぐんだ。