「あ……ごめん」

 どんなに自分勝手で理不尽な事でも、瀬奈は決して彼の言葉を否定しないと決めている。瀬奈は素直にテレビを消すと立ち上がり、快と自分の部屋に戻った。

「荷造り、終わった?」

「うん、後はちょっとした荷物とテレビとそのベッドくらい」

「そっか」

 かつては黒に囲まれていた瀬奈の部屋は、今は白や茶色の段ボールに占拠されている。もうすぐ爽や隼人、耕助やその友人たちで、引っ越し作業が行われる事になっていた。

「もうすぐ皆、来るし、快は家に戻る? 一緒に行くから」

「……うん」

 瀬奈に促され、快がゆっくり階段へと歩き出す。二人はそのままゆっくり、神童家へ向かった。



 ――何もしたくない。

 自分の部屋に戻り、瀬奈が引っ越し作業へ向かった為、快は一人、ベッドに横になり、天井を見上げていた。

 ――何も見たくないし聞きたくない。

 定期的に病院へ行っているが、回復している気が全くしない。それどころか、悪化しているような気さえする。

 休学したので必要なくなったが、勉強は全くできなくなり、食欲を始めとした"意欲"には波がかなりある。

「あ、こっちの部屋に」

 紗織や爽、瀬奈の声が廊下から聞こえ、ドタドタバタバタと複数の足音が響いてくる。客間として使っていた六畳の洋間が、今日からの瀬奈の新しい住家だった。

「瀬奈ちゃん、これどこに置く?」

 電化製品に詳しい爽が、どうやらテレビやDVDレコーダーの配線をしているらしい。ゴソゴソと小さな音が壁伝いに聞こえてくる。どれくらい経ったのか、やがて辺りがシンと静かになったので、快は重い体をゆっくり起こし、立ち上がった。

「瀬奈?」

 自分の部屋のドアを開け、ゆっくり客間だった洋室へ向かう。そこは玄関から一番近い部屋なので、快はそっと、ドアを開けてみた。

「あ、快」

 ドアを開けた先、軽快な音楽が流れる中、段ボールに囲まれた瀬奈が振り返る。客間はすっかり、瀬奈カラーの部屋へと変わっていた。

「すっかり変わっちまったな」

 相変わらずな室内に快が苦笑いすると、瀬奈も段ボールから荷物を出しながら苦笑いした。

「今日からお世話になります」