「高校生らしい付き合い方って?」

 冷静なトーンの瀬奈の言葉に愛美の怒りが更に増す。瀬奈は結奈に対してもいつもこうだった。

「手も繋がずに登下校を一緒にするとか?」

 どこか馬鹿にした瀬奈の態度に愛美の怒りに拍車がかかる。が、瀬奈は構わず続けた。

「お姉ちゃんだって高校生ん時から彼氏のとこ行ったり外泊したり、あげくに中絶だってやったじゃん!」

 少し声が荒くなる。

「お姉ちゃんには何も言わないくせに、あたしにだけ言うんた!!」

「せ……!」

「お母さんはいつもそーじゃん! あたしのする事にだけ口出したり、反対したり!! あたしはあたしなりに、責任のある行動取ってるつもりだし、心掛けてるし、取ってきたつもり!! それに今は快の病気が最優先!! お母さんの大事な世間体なんて、どーでもいいわ!!」

「瀬奈!!」

 愛美の右手が瀬奈の頬をうつ。が、瀬奈はたじろがず、母親を睨みつけた。

「男と寝る事ばっか考えてるお姉ちゃんも、自分の事を棚にあげるばっかのお母さんも嫌い!! そーよ、あたしはずっと、あんたたちが嫌いだった!!」

 叩かれた事で興奮し、珍しく瀬奈は本音を激しくぶつけた。すると、愛美は唇を噛み、それから静かに言った。

「あんたに嫌われてる事は判ってたわ……」

 そう言いながら、諦めたようにバッグを手に取る。愛美はそのまま玄関に向かい、パンプスを履きながら掃き捨てるように言い捨てた。

「全く二人そろって……! 大体、あんたが側にいるからって、何の役にたつのよ!! お母さんが"うつ病"になりそうだわ」

 玄関のドアを開け、愛美が城ヶ崎家を出て行く。少し重たいドアが乾いた金属音をたてて閉まった瞬間、冷たく静かな空気がリビングに漂った。

 瀬奈はじっと、動かないでそれを見つめていた。いや、実際には動かないのではなく、動けなかった。

 ――な……に……?

 リビングに一人残された瀬奈の五体を、マグマが駆け巡っていた。自分の身体の周りに、紅い炎を感じていた。

『大体、あんたが側にいるからって、何の役にたつのよ!! お母さんが"うつ病"になりそうだわ』

 ――なれるものならなってみろ!!

 両手が静かに拳を作り、震え始める。

 ――そんな偉そうな事言うなら……快を治してみろ!!

 悔しさで目頭が熱くなる。瀬奈は怒りの炎に身を焦がしながら、歯をギリギリ言わせた。快を治せもしないくせに、簡単に"うつ病になる"なんて言うな!! 快の苦しみも知らないくせに、偉そうに言うな!!