テレビを消し、映画雑誌をペラペラめくりながら、瀬奈が訊き返す。愛美はソファに座り、少し心配そうに娘を見た。

「快くん、病院は?」

「定期的に通ってるよ」

「調子は?」

「日によって違う」

 快の調子は相変わらずで、その日その日により変動が激しく、普通に過ごせる日もあれば、一日中ベッドにいる時もあり、また、一日のうちでも変動があり、一言では語れない状態である。側で見ていない愛美には説明しても判ってはもらえないだろうと諦め、瀬奈は素っ気ない返事を繰り返した。

「あんたたち、まだ……付き合ってるの?」

 そんな瀬奈の様子に何か感じたのか、突然、愛美が突拍子もない事を訊いてきた。瀬奈はさすがに雑誌から視線を外し、顔を上げた。

「付き合ってるよ」

 何言ってんの? 当たり前じゃん。

 目で愛美にそう伝える。するとその視線を受け取った愛美が訥々と語りだした。「お母さんの友達が昔、うつ病になったの」

「え……?」

 愛美の思わぬ言葉に、瀬奈は少し驚いた。愛美が続ける。

「今と違って情報のない時代だったから……お母さんも他の友達も何も判らなくて、家族も病気の事を直隠しにしていたし、だからお母さんたちもよく知らなくて、皆で励ましちゃったの。"病は気からって言うから、頑張れ"って。そしたら……ある日突然、自殺してしまったの」

「え……?」

 愛美の言葉に、瀬奈は息を呑んだ。愛美の話は続く。

「幸い一命は取り留めたけど、その後は病院に入ってしまってそれっきり……」

 愛美の話を、瀬奈は噛み締めるように聞いた。

「お母さんの知識なんて、励ましちゃいけないって事と、自殺しやすいって事くらいだけど……快くん、大変ね」

「うん、まあ……」

 親子の会話はいつもこんな感じであまり弾まない。特に今は余計に弾まなかった。しかし、瀬奈にはどうしても愛美に言っておかなければいけない事があった。それは現在、週の半分を、快がこの家で過ごしている事だった。

 表向きは修復されたかに思われた親子関係だったが、耕助と小さな溝ができてしまった快は、今、週の半分をここで過ごしている。この件については紗織や耕助も認めていて、神童家と瀬奈で、できる限り快を一人にしないよう、気を配っていた。

『瀬奈ちゃん、快を頼む』

 瀬奈が耕助に謝った時、耕助はそう言って瀬奈の手を握った。紗織に叱られた耕助は自分の考えを改め、以前のように息子を心配する父親に戻っていた。

「おか……」

「瀬奈」