二人に正論をぶつけられ、耕助の顔が紅潮する。紗織は爽を後ろに下げると、先を続けた。
「あの子が今、一番必要としてるのは瀬奈ちゃんなんです。瀬奈ちゃんが拠所なんです。お父さんはあの子を"怠け"てると言った。その言葉が快をどれだけ傷つけたか、判りますか?」
「……」
「本当にあの子が怠けてるように、見えていたんですか?」
それまで、耕助に対しあまり口答えをしてこなかった紗織の凛とした姿に、耕助は驚き、思わず声を詰まらせた。
「わたしを含め、家族でもっと病気について知らないと……」
紗織の言葉に耕助が横を向く。紗織は構わず続けた。
「お父さんだって、あの子がうつ病と診断されるまでは、凄く心配してたじゃないですか」
「……」
横を向いたまま耕助が黙り込む。彼はそのまま階段を上がり、寝室へこもってしまった。
「お母さん」二人の様子を窺っていた爽が心配そうに母を見る。
「大丈夫よ、ありがとね」
紗織はにっこり笑うと、キッチンに入り、夕食の後片付けを始めた。
梅雨が明け、夏を越し、秋になった。快が"うつ病""不安神経症"と診断されてから四ヶ月が経ち、快は最初の受診後に、診断書等の書類を学校に提出して休学し、定期的に病院に通い、点滴を受けたり、処方された薬を服用していた。
瀬奈はあの後、快の連泊を耕助に詫び、二人の関係は元に戻ったが、快と耕助との会話はあの日を境に減ってしまった。快にどう接したらいいのか判らない。それが、耕助の正直な気持ちだった。
そんな中、七月に予てより交際していた入江(いりえ)英明と再婚し、城ヶ崎家を出ていた愛美が、どこからか快の病気の噂を聞きつけ、突然、城ヶ崎家にやって来た。
「瀬奈、あんた、快くん……」
玄関のドアを開け、リビングでテレビを見ていた瀬奈への愛美の第一声はそうだった。
「あんた、快くんがうつ病って、本当?」
「あ……うん」
愛美の突然の訪問と問い掛けに、瀬奈はぎょっとしながらもゆっくりうなずいた。「そーだよ」
深刻な顔の愛美とは対照的に瀬奈は淡々としている。愛美はパンプスを脱ぐと。そのままリビングに入ってきた。
「ねえあんた、大丈夫なの?」
「……何が?」
「何がって……」