あの対処は間違いだったな。

 快の寝顔を見つめながら、瀬奈は思った。

『一緒に……死んで……』

 快の言葉が胸に蘇る。あの時、"否定してはいけない"と咄嗟に思い、ああいう返答になったが、一歩間違えば自分は死んで、快は殺人犯になっていた。いや、快もその後に死んでいたかもしれない。それは、瀬奈が望んでいる事ではない。瀬奈は、快も自分も、生きたいと思っているのだ。共に生きていたいと。

「ん……」

 小さく快が呻き、瀬奈はびくりとした。眠りが浅く、すぐに目を覚ましてしまう快に気をつけながら、そっと寝返りをうつ。

『……いいよ』

 自分の言葉が胸に蘇る。瀬奈はクーラーの設定温度を少し上げ、目を閉じた。

 ――あの時の言葉は半分本気で半分嘘。快に殺されるならそれでもいいと思ったのは事実。でも、あの時"でもね――"と続けるのが、本当だったんじゃないかな。"あたしは、あなたと生きていきたい"って言うのが、適当だったんじゃないかな。

 ブルーの遮光カーテンが、窓から流れ込んで来る月明りを優しく跳ね返している。自分を殺そうとした事で、結果的に快は傷ついたかもしれない。疲労感の中、様々な思いが頭を駆け巡る。

「ん……」

 隣でもう一度小さく呻き、快が寝返りをうった。瀬奈は肩が冷えないよう布団を引き寄せると、快に体を寄せ、眠りについた。



「どういうつもりなんだ!!」

 その頃、神童家では、連日の快の外泊に対し、耕助が怒りを露にしていた。

「二人はまだ未成年の高校生だぞ!! もし瀬奈ちゃんに何かあったらどうする気だ!!」

 耕助の怒りの矛先は妻の紗織である。

「お前、母親だろう!! 今すぐ快を連れ戻して来い!! あいつはただ、怠けてるだけなんだ!!」

「やめろよ!」

 耕助の激しい言葉に紗織が何か言いたげに唇を噛む。すると、自室でその様子を聞いていた爽が階段を駆け下り、二人人の間に入った。

「待てよ、快は怠けてるんじゃない、病気なんだ!」

 突然割って入って来た爽を耕助が睨みつける。すると今度は紗織が口を開いた。

「わたしも少し調べてみました。快は決して怠けてる訳じゃありません。認めたくないけど……あの子は病気なんです」

「な……!」