快の両腕がしっかりと瀬奈を抱き締める。二人はそのまま固く抱き合った。
「死のうとしたんだ……。でも……」
そこまで言った快が後は黙り込む。瀬奈は小さく首を振り、抱き締める腕に力を入れた。
何も言わなくていい。あなたが、あなたが生きてさえいてくれれば……! 瀬奈はそんな思いで一杯だった。快の体温をこれほどまでに愛しいと思った事は、もしかすると初めてかもしれない。
「瀬奈……」快も瀬奈を抱く腕に力を入れる。と、その耳元で、快がか細い声でささやいた。
「一人は怖い……」
「……うん」
「一緒に……死んで……」
「――!!」
瀬奈の瞳が大きく大きく見開かれる。と、返事を待たずに、快が瀬奈をゆっくり床に押し倒していった。
『一緒に……死んで……』
全く予想していなかった言葉に、動揺して声が出ない。快はそっと上体を浮かすと、震える手で瀬奈の細い首に手をかけ始めた。
「か……」
快の名前を呼ぼうとして瀬奈はハッとした。
――"何を言っても、否定しちゃいけない"
Googleで調べた時に見た文章が瞬時に頭に浮かんだのだ。
否定してはいけない。そう、確かにそう書かれていたし、その後に図書室で読んだ本にも同じ事が記されていた。
決して否定してはいけない。否定してはいけない。
“否定してはいけない”という言葉が、頭の中を呪文のようと回りだす。やがて、瀬奈は覚悟を決めたように快を見た。
「……いいよ」
瀬奈はゆっくりと、そう言った。
――快と死ぬならそれでもいい。でも、もしできる事なら……快、あなたは生きていて。
「瀬奈……」
快の指がゆっくり瀬奈の首を締め始める。瀬奈は静かに目を閉じた。
「俺も……すぐに逝くから……」
喉頭が圧迫され、吸気や唾液が飲み込めなくなる。同時に頸動脈も圧迫され、血流の遮断と共に頭が熱くなってくる。
――苦しい……!
馬乗りになって首を締める快の力で、呼吸が全くできなくなり、酸素を求めて身体に力が入る。予想以上の苦痛に、手足がピクピク動き出した。
それは、想像をはるかに超える苦しさだった。前頭部にまるで爆発しそうなくらいの圧を感じ、たまらなくなる。