雑然と置かれていた荷物がなくなった廊下を進みながら快が呟、瀬奈はうなずいた。
「お姉ちゃんが出てったの。彼氏と同棲してんだ」
「そっか」
快は、瀬奈の家の変化に、時の流れを痛感しているようだった。
「今、何か冷たいもの持って来るね」
いつものように階段を上がる快に、瀬奈がそう声をかける。恐らく快はすぐにヘッドに横になるだろう。瀬奈はそう予想しながら麦茶を入れたグラスを手に、階段を上がって部屋に入った。ムッとする室内にクーラーを入れ、鞄とグラスを火燵に置く。するといきなり、快が後ろから瀬奈を抱き締めてきた。
「会いたかった……」
そう言って、快が唇を合わせてくる。そのまま快は瀬奈をベッドに押し倒し、ささやいた。
「……ごめん、一人にして……」
そうささやきながら、快が瀬奈を求め始める。制服を脱がされながら、いつものように快の服を脱がそうと彼の背中に腕を伸ばした瀬奈だったが、寸前でふと手を止め、伸ばしていた手をパタリとベッドに投げ出した。
「……どうした?」
彼女の耳朶や首筋にキスしていた快が、ふっと顔を上げ、不思議そうに瀬奈の瞳を覗き込んだ。瀬奈はそれを避けるように目を閉じ、口を結んだ。
――触りたく……ない。
閉じた瞼の裏で瀬奈は戸惑っていた。痩せた快に、触れるのをためらっていた。
「……瀬奈?」
いつもは見せない瀬奈の反応に戸惑ったように快が尋ねるが、瀬奈は答えられなかった。 どう答えればいいのか、判らなかった。
快はそんな瀬奈をしばらく観察するように見ていたが、やがて答えを待たずに再び唇を重ね、自ら瀬奈の腕を自分の背中に回させた。
快の情熱が、密着した部分を熱くしてゆく。いつもならその熱に頭の中が溶け、快感の波に身を任せる瀬奈だったが、今日の彼女は駄目だった。
「嫌だったのか……?」
情事の後、瀬奈を抱いたまま快が言った。
「……ううん」
快の問いに瀬奈が首を振る。が、何となくその仕草が引っ掛かり、快は瀬奈を抱く腕に力を込めた。
――久し振り……なのに。
午前中までは、横になっているのがやっとだったが、午後は重かった身体が何となく軽くなり、ずっと会ってなかった瀬奈にたまらなく会いたくなって、彼女の帰りを待っていた。そして、顔を見たらたまらなく欲しくなって愛し合ったのに、今日の瀬奈の身体はとても冷たい。