耳元でささやかれる、快の愛しくて甘い声。二人は強く抱き締め合い、キスを繰り返しながら、黒いシーツの海に沈んだ。



「久し振り……だな」

 すっかり暗くなった天井を見上げながら快が言うと、瀬奈はうなずいた。しかしそのうなずきは、久し振りに愛し合った嬉しさの中に“その気になれなかったんじゃないの?”という疑問を隠したうなずきだった。瀬奈は逡巡した後で、思い切ってその思いを正直に口にした。

「その気になれなかったんじゃ……」

「俺も……きちんとできるとは思ってなかった」

 瀬奈の問いにそう答え、快は頭の後ろで手を組んだ。

「どうなるか判らなかったけど、始めてみたら大丈夫だったから……」

「うん……」

 ――性欲……戻ったのかな。それとも、たまたま……?

 愛し合えた事をもう少し素直に喜べばいいのにと思いながら、瀬奈の頭の中を様々な考えが回る。すると、側で横になっていた快が、彼女を抱き締めてきた。

「しばらく……このままで」

「……うん」

 抵抗感を乗り越え、やっと受診までこぎつけたのに、結局何も判らなかった快の中の謎。瀬奈の温もりを感じながら、快は今、何を思っているのだろうか? 瀬奈は、漠然と広がる大きな闇の不安に、ゆっくり、飲み込まれていくような気分だった。