ベッドに横になり、見慣れた茶色の天井をぼんやり見つめながら、快は深くため息をついた。

 あの日以来、瀬奈とはまともに会話もしていない。ため息しか出ない中、突然、意識が遠のき始めた。

 ――あ……。

 まるで暗い穴に背中から落ちてゆくような速さで視界が闇に染まる。彼はそのまま、意識を失った。



 ――雨……?

 次に意識を取り戻した時、快は真っ暗闇の中、うつ伏せで倒れていた。

 頬にひんやりと当たる冷たく、少し凹凸のある、ザラザラとしたアスファルトの感触、

 ――何で……?

 快は顔にかかる長い前髪を揺らしながら、よろよろと立上がり、ゆっくり辺りを見回した。

 ――ここ、どこだ……?

 自分の部屋のベッドにいたはずなのに、なぜ地面の上に寝ているのかさっぱり判らない。

 ――まさか、今度は夢遊病にでもなっちまったのか……?

 空を見上げてみるが星一つ見えないし、風の音も聞こえない。ピンと張り詰めた冷たい外気も感じない。

 ――何だ……?

 快は再度辺りを見回しながら、必死に目を凝らした。

 ――暗い。何も見えない……。

 闇の中でゆっくり、左右に両手を広げてみるが何も触れない。前後にも同じように手を伸ばしてみるが、やはり指先にも腕にも、何も触れなかった。

 ――何だよ……。

 はいているデニムのポケットに片っ端から手を突っ込んでみるが、小銭はおろか、携帯電話も持っていない。

「……寒」

 雨が降っている事に気付いて自分自身を抱き締める。寒さを自覚した途端、急にリアルな寒さが襲ってきた。

 ――濡れてる。

 どれくらい雨にうたれていたのか、髪も服も水を含んでじっとりと重くなっている。快は不安の中、寒さに凍え、思わずその場にうずくまり、頭を抱えた。

 ――怖い。

 頭から手を離し、ガクガク震えながら今度は膝を抱える。閉じている口の中で、歯がカチカチ音をたてた。