白い病室は、まるて空気の流れさえ停まったかのように、シンと静まり返った。
「迷惑……?」
先に快が静寂を破る。
「……」
瀬奈は何も言わない。
「……そんな言い方ないだろ……」
快の暗い瞳に、怒りとも絶望とも言えぬ光が宿っている。その光は重い質量で、彼の瞳を離れると、直ぐにストンと床に落ちた。
「……そんな言い方しかできないのか……?」
――俺がどんなに苦しくて辛いか……判ってくれてたんじゃないのか……?
瀬奈は依然何も返さない。
――全部は無理でも、少しは判ってくれてたんじゃないのか……? それとも、そう思ってたのは、俺だけだったのか……?
「……ごめん」
ようやく瀬奈が口を開く。「言い過ぎた……」
「……」
今度は快が押し黙った。そのまま寝返りをうち、拒絶するように瀬奈に背を向ける。
『迷惑だから!』
迷惑、めいわく、メイワク……。
重くなる空気に、呼吸すら息苦しくなりそうな白い部屋。快も瀬奈も貝のように口を閉ざし、互いの鼓動音が聞こえてきそうな程の静寂に包まれる。
――もう、駄目なのか……?
窓の外に広がるアイスブルーの空を見上げながら、快は音をたてぬように静かに息をついた。
――結局俺はずっと、孤独だったのか……。
「……快」
パイプ椅子の軋む音がし、快の肩がピクリと小さく動く。瀬奈が椅子から立ち上がって自分を見ている事を、快は気配で感じ取った。
「……ごめんなさい。本当に……言い過ぎた」
「……」
瀬奈が自分に背を向けた事を、また気配で悟る。快はじっとしたまま、耳だけ、その機能を働かせた。
「言い過ぎた……。でも、本当に……快に、生きててほしい……。死なないでほしい……」
「……」
「快がいないと……あたしは、あたしは……」
そこまで言い、突然、瀬奈が病室を飛び出す。しかし、それでも快は動かなかった。
翌日、快は退院を許され自宅に戻ったが、薬は紗織と瀬奈が管理する事になった。