せっかく弾んでいる親友の気持ちに水をさしてはと、明るく返信する。しかし実際は泣きたい気分だった。


【今度、写メ送るよ。
近いうちに会おーよ。】


【OK! また連絡するね。】


 文面上は何もなかったかのように屈託ないフりをする。ひどく、胸が痛んだ。

 瀬奈のこんな気遣いを菖蒲はきっと喜ばない。判ってはいたが、頭より先に指がそう動いてしまう。

 ベビーベッドの中の優月が目を覚まし、澄んだ瞳でじっと母親を見つめている。瀬奈はその視線には気付かず、静かに膝に、開いたままの携帯電話を落とした。



 快は翌日になっても意識がはっきりせず、爽、紗織、耕助、瀬奈が交代で付き添っていたが、翌々日の昼過ぎになってようやくはっきりと覚醒し、夕方近くにゆっくりとだが、会話が可能になった。

「……瀬奈」

 意識がはっきりとしてくる中、快の瞳に最初に映ったのは――瀬奈だった。

「ここは……?」

 疲れ切った表情でパイプ椅子に座り、ぼんやりと窓の外を眺めていた瀬奈が、快の呼び掛けにハッと瞳を見開く。

「快、気付いたの?」

 瀬奈の哀しそうな瞳が快の目に飛び込んでくる。快はゆっくりうなずいた後、瀬奈から視線を外し、天井を見上げた。

「俺……」

「病院だよ」

 ゆっくりとだったが、なぜ自分が病院にいるのか、快は確実に状況を把握し理解した。四方を白い壁に囲まれた小さな個室。左腕に点滴のラインが見える。

 ――死ねなかったんだ……。

「……快」瀬奈が快を呼んだ。

「どうして……?」

 家族なら当然な質問。

「……」

 すぐには答えない快に瀬奈も押し黙る。重く苦しい沈黙。と、膝に置かれていた瀬奈の掌が、ゆっくり拳を握った。

「もう、こんな事しないでね、迷惑だから!」

 突然、やや強い口調で、瀬奈がそう言い捨てた。その言葉に、快が息を呑んだように瞳を見開く。瀬奈は唇を噛み締めたまま、快から視線を外し、その瞬間、二人の間に存在していた闇の溝に深い亀裂が入り、黒い大きな穴が、地割れのように口を開けた。