憔悴仕切った顔で頭を下げる瀬奈に、紗織は黙って首を振り、哀しそうに目を伏せた。

「本当にすみません。あたしがもっと……」

「もういいから」瀬奈の言葉を遮り、紗織がまた首を振る。

「瀬奈ちゃんのせいじゃないから。皆、気付かなかったのよ」

 紗織の優しい言葉が瀬奈の中にある"自責の念"を更に強くする。しかし、それ以上、瀬奈は何も言えなかった。

 ――あたしが悪いんだ。一番敏感に察知するべきあたしが、今は快から距離をおいてる……。

 決めたはずだ。どんな事があっても、側を離れないと。快を守り、幸せにするんだと。絶対に、死なせないのだと。なのに、その決意は、どこへ消えてしまったのだろう。

「仕事行く前に爽に差し入れ持って行くから、瀬奈ちゃんは優月と休みなさい」

 紗織の言葉に耕助もうなずく。

「……すみません」

 瀬奈は力なく頭を下げ、ベビーラックから優月を抱き上げた。

 ――自殺願望はうつ病の一番有名な症状。知っていたのに……。

 昨日の"予約外"の診察は"薬"を手に入れる為だったのだと、事が起きてしまってから知る哀しさと、己に対する絶望と非難。瀬奈はただひたすら、自分自身を責めた。耕助や紗織たちがどんなに励ましてくれても、それをせずにはいられなかった。



【彼氏ができました。】


 朝、まだ絶望の縁にいる瀬奈の携帯電話に、菖蒲からのメールが届いた。


【合コンで知り合って……何といーますか、お互いビビビっと……(笑)】


 何とタイミングの悪いメールだろう。しかし、瀬奈は正直な気持ちを菖蒲に伝える事ができなかった。

 ――そうだ、あたしたち、まだ二十歳なんだもんね……。菖蒲は大学生だし、出会いの場はいくらでも存在するよね。


【おめでとう! よかったね。
菖蒲は面食いだから、当然イケメンなんでしょ?】