透明な点滴が、ゆっくり、ラインを通じて快の血管に入ってゆく。その静かな光景を、パイプ椅子に座り、瀬奈は黙って見つめていた。

 ――快、どうして……。

 胃洗浄をされた快は、ひどく疲れた表情でベッドに横たわり、目を閉じている。瀬奈は優月を紗織に預け、どうにか精神状態を持ち堪えさせ、病院について来ていた。

 あの後、あまりのショックに錯乱状態寸前にまで陥った瀬奈だったが、目を覚ました優月の泣き声と、紗織の平手打ちで正気を取り戻した。

『しっかりしなさい!! 瀬奈!!』

 ――初めてお義母さんに呼び捨てにされた……。

 打たれた左頬にもう痛みはないが、瞳に涙を一杯に浮かべながらも、泣くまいと必死に堪えている紗織の姿は、瀬奈には強烈だった。

 紗織だって、平気だったはずがない。自分が"親"になって初めて知る紗織や耕助の気持ち。最愛の息子が自殺を図ったという受け入れたくない現実――。

 ――気付かなかった……。まさか、まさか快がここまで追い詰められていたなんて……。

 昨日、処方されて持ち帰った薬の全てを一気に服用した快は、一命は取り留めたものの、服用した薬の作用で意識が朦朧としているらしく、意志の疎通はできない。

 ――あたしは何をしていたの? あたしは一体、何してたの!?

 深い自責の念が瀬奈をしっかり捕らえて離さない。

「意識レベルが低いので、意識がきちんと回復するまでは入院していただきます」

 快を担当した救命居と石崎が瀬奈の側に来る。看護師の呼び出しに慌てて自宅を飛び出したらしく、石崎の服の襟は変なふうに折れ曲がっていた。快が搬送されたのは幸いにも、自宅から近い、あの総合病院だった。

「すみません。ありがとうございます」

 深々と頭を下げる瀬奈に、石崎も瞳を曇らせている。

「昨日診察に来られた時に、異変に気付くべきでした」

「いえ、先生のせいじゃ……」

 涙腺が熱くなり、その先は言葉にならない。

 ――あたしのせいです――。

 快は眠ったまま目を覚まさない。瀬奈は乱れた前髪を指で整え、眉毛を下げたとても情けない表情で、石崎と快、そして自分の足元と、順番に視線を移した。

「じゃ、お大事に」

 救命医の言葉と共に石崎も部屋を出て行く。じっと座っていると、そっとドアが開き、耕助が入って来た。

「爽が代わるから瀬奈ちゃんは俺と帰ろう。優月もいるし」

「――はい」

 そう促され、後からやって来た爽と付き添いを交代する。瀬奈は重い足取りで病室を後にし、そのまま耕助と家へ戻った。



 二人が家に戻ると、紗織はリビングで起きていて、優月はベビーラックで眠っていた。

「お義母さん、すみません」