突然の妊娠判明から程なく、瀬奈は使い慣れ親しんだ"城ヶ崎"から"神童"に姓が変わった。

 耕助と紗織は「きちんと式をした方が、二人の気持ち的にもいいけじめにもなる」と言ったが、瀬奈は式の準備等でバタバタすると、快の体に負担になるかもしれないし、お金ももったいないからと丁重にその話を断り、写真館でウエディングドレス姿で結婚写真だけ写す予約をし、結婚自体は区役所に婚姻届を出すだけの、大変シンプルな形ですませ、日常生活に戻った。

「お似合いですよ」

 ある日曜日、写真撮影時に着用するドレスの試着に快と二人で写真館を訪れた瀬奈は、店員の言うままにウエディングドレスを試着し、ヘアスタイルはいつも通りだったが、それでもいつもとは随分違う姿で、快の前に現れた。

 全身をくまなく見れるよう、約三百六十度鏡張りになっている試着室から純白のウエディンッドレス姿で出て来た瀬奈に、快は何も言わなかった。

「まだお腹も目立ちませんし、目立ったらマタニティ用のドレスもございますので」瀬奈の頭にティアラとベールを着け、整えながら店員が言う。

「ふっ」"マタニティ"という言葉にふとおかしくなる。

 ――時代だな。まさかあたしが"でき婚"するなんてね。

「せっかくだから、ご主人もタキシードに着替えましょうか」

 黙ったまま棒のように突っ立って瀬奈を見ている快に店員が声をかける。

「え……? あ……」

 いきなりの言葉に戸惑いながら、快がタキシードが並ぶ部屋へと連れて行かれ、その、どことなくぎこちない快の様子に瀬奈はまたおかしくなった。

 ――"ご主人"……か。

 入籍してまだ数日なので、全然"夫婦"になったという実感がない。苗字が変わっただけで生活自体は以前と何ら変わらないからだ。当然、新鮮味もない。

 ――まだくすぐったいな。

 一人物思いにふけっていると、これまたぎこちなく、タキシードを着た快が戻って来る。

「記念にポラロイドを。並んでください」

 店員がポラロイドカメラを構え、別の店員がどこかからブーケを持って来て瀬奈に握らせる。
「はい、チーズ」

 フラッシュと共にカシャリとシャッター音がし、まるでアッカンベーをするように写真がカメラ下部から出て来る。何だかカメラに笑われているようで、瀬奈は思わず肩をすくめた。



「女って変わるんだな」

 写真館を出て近くのカフェで遅い昼食を取っていると、突然、快がそう言った。

「えっ?」