「ごめん、気になって……」快に気付いた瀬奈は、決まり悪そうにそう言って頭をかいた、

「……学校は?」

「……仮病使っちゃった」

「入れよ」

 鍵を開け、快は瀬奈を家の中へ入れた。誰もいない時間なので、二人はそのまま快の部屋へ向かった。

「何か飲む?」

 瀬奈を部屋に通してから、思い付いたように快が訊く。瀬奈は小さく首を振り、ベッドに座った。

「胃カメラ……どーだったの?」瀬奈がいきなり本題から入る。

「何もなかった……」快はベッドに腰掛け、溜め息混じりにそう言うと、いつものように横になった。その動きに合わせ、瀬奈がベッドから床へと座る位置を変える。

「何もなかった……」

 横になった快を見つめながら、瀬奈は快の言葉を繰り返し、そして本当に一瞬だけ、安堵の表情を見せた。恋人の胃に異常がなかった事で彼女の中の例の図式が消えたのだろう。しかし当の快は、安堵と同時に、別の不安が首をもたげていて、素直に安堵する事が出来ずにいた。胃に異常がないのなら、一体何ななのだろうか?

「ね……」

 不意に瀬奈が近付き、彼の顔を覗き込んだ。

「やっぱり更年期障害じゃない?」

「え……?」

 どうやら瀬奈も同じ疑問を抱いていたらしい。しかし、再び彼女の口から発せられた“更年期障害”という言葉に、快は口の端を上げ、少しおかしそうに”まさか”と言う顔で彼女を見た。

「だっておかしーよ、やっぱりどっか変だよ。自分だってそー思ってるでしょ?」

 快のその反応に、瀬奈が真剣、かつ勢いよく続ける。「違うなら違うでいーんだから、一度病院に……」

「瀬奈」

 快は彼女の言葉を遮り、首を振った。「更年期障害が何で精神科や心療内科なんだよ」

「え……」

 快の言葉に瀬奈は一瞬、言葉に詰まらせたが、すぐにこう答えた。

「ネットにそう載ってたの。男性の更年期障害はテストステロンってホルモンが減る事でなるらしくて、で、中には自律神経失調症に似た症状が出る事あって、その症状が強い場合は精神科にって……」

「ふ~ん」

 瀬奈のその言葉に快は少し関心したように彼女を見た。

 ――違うなら違うで……か。

 瀬奈の言葉に納得しつつも、まだいまいち、そこに行く気にはなれなかった。だが、心配してくれる瀬奈の気持ちは嬉しかった。しかし一方で、"精神科""心療内科"という名前には、抵抗があった。