「う~ん」
快の問いに石崎は腕組みし、低く唸った。
「正直に言うとねぇ、"影響しない"とは言い切れないんだけど、だからって確実に障害が出る……とも言えない」
「そうですか……」
石崎の言葉に快は落胆した。
「……ところで、急にこんな事訊いて……どうしたの?」
診察室に入るなり、助走なしでいきなり本題に入った為、石崎が不思議そうな顔をする。
「あ、ちょっと気になっただけです」
石崎の問いに対し、快は咄嗟にそうごまかした。
――いずれバレるけど、今はまだ、はっきり方向性が定まってないから……。
「調子はどう?」追求せず、穏やかな表情で石崎が尋ねてくる。
「あ、最近はいい方です」
快は伏し目がちにそう言うと、拳を緩く握った。
「――そう」
昼休憩のロッカールーム、結果を早く知りたくて電話した瀬奈に、快は石崎に言われた事を正直に話した。
『後は両親であるお二人の気持ち次第です』
昨日の産婦人科医の言葉が頭をよぎる。
「判った。じゃ、後でね」
そう言ってゆっくり携帯電話を閉じると、自然と唇からため息が漏れた。
――やっぱり後は、あたしたち次第なんだ……。
もし堕胎と言う選択肢を選んだ場合、妊娠十二週以降は堕胎手術の術式が変わる為、母体への負担が大きくなる。迫り来るタイムリミットの中、瀬奈は言葉にできぬ大きな不安を、依然、抱えたままだった。
突然、握っていた携帯電話から軽快な音楽が流れ出す。それは快からのメールを伝える音だった。
【考えたけど、やっぱり俺は産んでほしい。薬の事、気にならないと言ったら嘘だけど、それでもやっぱり、産んでほしい。】
開いた画面にそんな文字が並ぶ。瀬奈はゆっくりとそのメールを読んだ。
巷ではよく、彼女の妊娠を知った彼氏が逃げ腰になったり、責任逃れをしようとする――という話を聞くが、快は真正面からその事実を受け止め、責任を取ろうとしてくれている。
――きっと、凄く感謝すべきなんだよね。
瀬奈は携帯電話を閉じ、側の壁にもたれかかった。