瀬奈の言葉に紗織は怪訝な顔をした。それを見た瀬奈は紗織のその反応を予想通していたらしく、うつむいて苦笑した。
「……瀬奈ちゃん、紅茶入れるから座って」
苦笑して落胆した様子の瀬奈を紗織がリビングに促す。瀬奈は黙ってソファに腰を下ろした。「男に更年期障害なんて変ですよね。最初はあたしも信じられなかったんです。でも……快の体がおかしいのは事実だし。あたし、快に何が起きてるのか少しでも知りたくて、だから、少しでも可能性があるなら……」
紅茶の準備をする紗織に、うつむいたまま、瀬奈が言った。
「瀬奈ちゃん」
紗織は瀬奈に紅茶を差し出し、テーブルを挟んだ向かいに座った。
「いただきます」紗織がテーブルに置いたティーカップを手に取り、瀬奈はそう言って、ゆっくりティーカップを口に運んだ。
「ありがとう、快の事……」
紅茶を飲む瀬奈を見ながら紗織は言った。「あの子、わたしたちにはあまり話さないけど、瀬奈ちゃんになら……話すと思うから……」
紗織の言葉に瀬奈は答えず、黙って紅茶を喉に流し込んでいる。家族の誰もが、最近の快の事を気にかけていた。
「はい、じゃ、口開けて」
金曜日の午後、快は内科医院の寝台に横になり、胃カメラの飲もうとしていた。
「おえっ!」
胃の泡を消すための消泡剤を飲んだ後、口腔内に麻酔をし、いよいよ内視鏡が挿入される。内視鏡が口腔内を進み、食道に近付いた時、予想していた嘔吐反射に快は襲われた。
「ぐ……っ!」
数度の反射と戦った後、ようやく内視鏡が食道内に入る。何とも言えない気持ち悪さを感じながら、快は何とかそれに耐え、まな板の上の鯉状態で、医師の手元に全てを任せた。
「特別何もなかったよ」
検査が終わり、診察室に呼ばれた快は、医師のその言葉に安堵と不安の表情を見せた。
――何もない……。
瀬奈同様、"癌"を心配していたので、"何もなかった"と言われ嬉しかったが、ならなぜ、体調が回復しないのか? という疑問が残り、不安を払拭するには至らなかった。
「あまりにも食べれないようだったらまた点滴するから、また来て」
「……はい」
実は既に何度か点滴を受けている。
「……ありがとうございました」
快はぶっきらぼうにそう言うと医師に頭を下げ、医院を後にした。
家に戻ると、玄関の側で瀬奈が膝を抱えて快を待っていた。