「……ありがとうございます」

 瀬奈は書類に目を落とした後、丁寧に頭を下げた。「自分のルーツが少しでも判って嬉しいです」

「そう、よかった」瀬奈の言葉に安心したように英明が立ち上がる。

「じゃ。僕はこれで」

「本当にありがとうございました」

 リビングを出、玄関に向かう英明にもう一度そう言い、瀬奈も玄関に向かう。英明はゆっくり靴をはくと、じっと、何か言いたそうな表情で瀬奈を見つめ、それからゆっくり、神童家を後にした。

「見ても……いいかな?」テーブルに置かれた書類を見て耕助が尋ねる。

「はい。おじさんたちも読んでください」

 瀬奈は少し恥ずかしそうに微笑み、さりげなく側に来た快と共に部屋に戻った。

「自分の事、判ってよかったな」

「うん」

 瀬奈のベッドに横になりながら快が言う。半年前の入院時には寂しさから瀬奈に対する終着が強まった快だったが、退院後は元に戻り、性欲のペースもそれまでの波のあるものへと戻った。他の症状も一進一退を繰り返していたが、勉強が少しずつできるようになり、通信課程を順調に卒業へと向けて進んでいた。

「なぁ」

 机の前に座り、パソコンを立ち上げている瀬奈に快が声をかけた。「生理……きたか?」

 快の言葉に瀬奈がその動きを止める。

「まだ……」

 瀬奈の返事に、室内の空気が重くよどむ。

「もう十日、遅れてるんだろ?」

「うん……」

 その言葉を最後に二人の会話が途切れる。

「……明日、検査薬買ってくるよ」

 瀬奈は小さくそう言うと、白く光るディスプレイを見つめた。



「城ヶ崎さん」

 看護師の声にハッとする。

「準備できました?」

「あ……はい」

 薄いピンク色のカーテン越しに声をかけてくる看護師に、平静を装った声で返事する。瀬奈は産婦人科の内診室にいた。