「切りたくなっちゃって。朝が楽でいーよ」
瀬奈はそう言うと愛想笑いした。
「快、どーしてる?」会話が一段落したところで、隼人が訊いてきた。
「今、入院してるんだ、そこの総合病院に」
「え……?」
瀬奈の言葉に隼人は驚いた顔で今、瀬奈が出てきたばかりの病院の方を見た。
「入院……してんだ」
「うん、先月から」
「調子……悪いのか?」
「うん、まぁ」
隼人の問いに瀬奈は言葉を濁した。隼人には申し訳ないが、今の快が具体的にどういう状態なのか、測り兼ね、言葉にできなかった。
「そっか。全然メールないし、俺もバタバタしてて連絡しなかったから入院したなんて知らなくて……」
「そんな……いいよ」
「城ヶ崎は当然、毎日行ってんだろ?」
「うん」
夜風が二人の体を包んで吹き抜ける。不意に隼人が暗い夜空を仰いだ。
「ホント、城ヶ崎はよくやってるよなぁ」
デニムのポケットに両手を突っ込んで隼人が静かに呟いた。「悪いけど俺が同じ立場なら……きっと見捨ててる」
「……」
「きっと支え切れねー」
そう言って隼人が目を伏せる。その声はどこか低く沈み、"ここ"じゃないどこか遠くへと、想いをはせているような口振りだった。
――あたしだって、駄目な時、あるよ。
隼人と別れ帰宅し、紗織たちに快の様子を伝えながら夕食をすませ、入浴を終えて自室に戻った瀬奈は、隼人の言葉を思い出しながらベッドに横になっていた。
――たまには気持ちが一杯一杯になって戸惑って、投げ出したくなったり、逃げたりしたくなる。けど、あの時、もう逃げないって決めたんだ。
時計の針が十一時を回る。瀬奈はぼんやりと天井を眺めていた。
快に生きていて欲しい。ただそれだけの想いで自分はここにいる。
『悪いけど俺が同じ立場なら……きっと見捨ててる』
『きっと支え切れねー』
――山科くん、何かあったのかな……?
隼人のあの、どこか遠くを見るような口振りが妙に気になり携帯電話を取る。
――菖蒲なら家が近所だし、何か知ってるかも。