苦じゃなかった瀬奈との電話やメールも、最近は何だか少しわずらわしくなり、瀬奈からの一方的な形になってきている。決して瀬奈を嫌いなわけじゃないし、その件について瀬奈も何も言わない。ただ、携帯電話を使う事がたまらなくおっくうだった。快はそんな微妙な変化に自分自身気付きながらも、それに抗えず、身を任せてしまっていた。というより、体が辛過ぎて、身を任さざるおえなかった。食欲ばかりか、気力や思考能力まで、最近何だかおかしくなってきた気がする。
――早く知りたい。
自分の中で一体何が起きているのか、快はどうしようもない不安で一杯だった。
「胃カメラ?」
夕方、快の部屋を訪れた瀬奈は、快から胃カメラを飲むと聞き、目を丸くした。
「……大丈夫?」
「大丈夫って?」
「いや、だって、胃カメラなんて……。胃の調子悪いの?」
「そーじゃね~けど……食えないし」
会話しながら、瀬奈は心配そうに快を見た。
――胃カメラ。
正直、瀬奈は"胃カメラ"にいいイメージはなかった。実は十年前、彼女の叔父が胃癌で亡くなっていて、胃カメラ=癌と、ちょっと嫌な図式が彼女の中で形成されているのだ。
「……いつ?」
「金曜日」
「そう」
――痩せ……。胃カメラ……。
癌に罹患すると痩せてゆく――。快が不安に駆られたように、瀬奈にもそれくらいの知識はある。
――まさか……ね。
瀬奈は胸にわき起こる嫌な思考を無理矢理頭から追い出そうと努めた。
「瀬奈ちゃん」
快の部屋を出、帰ろうとした瀬奈を、紗織が呼び止めた。
「快、学校ではどう?」
この頃は紗織や耕助、兄の爽も快の体調の変化に気付いていて、皆が"様子観察"的眼差しで快を見ている。が、元来の無口な快の性格が、情報発信を妨げ、母親である紗織は少しヤキモキしていた。
「お弁当も食べないし、ご飯も食べないし……。病院には行ったって言ってるけど……」
息子を心配する紗織の言葉に、瀬奈が小さくうなずく。食欲をなくし痩せてきた息子。親なら当然心配である。そんな紗織の心情を察したのか、声を潜めて瀬奈が言った。
「快にも言ったんですけど……もしかしたら"男性の更年期障害"じゃないかって、あの、ネットで調べたらそんなのが出て来て……。でも、どうやら快、信じてないみたいで……」
「男性の、更年期障害……?」