瞬間、瀬奈は耳を疑った。

 "セックスしよう"

 突然の行動と言葉。瀬奈は言葉を失い、同時に体を硬直させた。

 ――快……?

 快の口から発せられたその意外すぎるストレートな言葉。そのあまりの意外さに瀬奈は激しく動揺した。

「……な? しよう」

 言うなり、快がその場に瀬奈を押し倒す。快はそのまま、荒々しく瀬奈を求め始めた。

 いつもより少し乱暴に脱がされながら、戸惑いの中で瀬奈の視線が宙を彷徨う。が、快は構わず、貪るように彼女の唇を奪った。

「ま、待って」

 しばらくして唇が離れる。瀬奈はそこでようやく口を開いた。

「ここじゃ嫌、快かあたしの部屋で……」

 今まで、事の最中に瀬奈が言葉を発する事は殆どなかった。しかし、今は発せずにいられなかった。

 どうしたのだろう、一体。

 ひんやりと冷たい床の上で、考えを巡らせる。うつ病の症状に性欲減退とは書いてあるが、積極的になるとか、強まるとかという記載は記憶にない。

「お願い……」

 再びキスしようとする快の唇をかわし、もう一度瀬奈がそう言うと、快は黙って彼女を抱き上げ、自分の部屋に連れて行った。

「ん……!」

 ドサリとベッドに放られ、再び快が始める。瀬奈は目を閉じ、ひとまず流れに身を任せた。

 荒々しい快とは対照的に、瀬奈の心は深々と冷えてゆく。瀬奈はまだ、驚きの中にいた。

「瀬奈……」

 快の熱い体温と混ざり合う瀬奈の冷たい体温。

 ――こんな快、初めて……。

 動揺しながらも、瀬奈はそれを快に悟られないよう、彼の背中に腕を回し、快との行為に集中した。



「どこ行く」

 そっとベッドを抜け出した瀬奈の腕を快が掴んだ。

「……シャワー浴びに」

 遠慮がちに瀬奈が言うと、快はゆっくり掴んでいた腕を離した。

「早く戻って来いよ」

「う……うん」

 快の言葉に戸惑いながら、瀬奈は足早に部屋を出。そのままバスルームに入った。

 ――久し振りだったからかなぁ。