球技大会2日目も無事に終えた伊織達は、普段の何気無い生活を送っていた。
季節は移り変わり、夏になっていた。
蝉が煩いほど鳴いている中、伊織のクラスは体育の授業を行っていた。
今日は気温も高いため、プールで水泳をすることになっていた。
「伊織は入らないの?」
「アルビノ体質みたいでね。ドクターストップ」
暑いから入りたいのに。
残念そうに呟いた伊織は、静かにプールサイドの日陰に逃げた。
「泳げないけどね」
体育の授業も中盤に差し掛かったとき、伊織はプールの近くで見学していた。
伊織以外にも見学はいて、男子もまばらにいる。
今は自由時間のようで、雪架に呼ばれて近くに来た次第だ。
「気持ち良さそう…」
「入れば良いのに」
不思議そうにそう呟いた秀弥に、伊織が苦笑を漏らした。
ふと横を見れば、健斗が毛怠そうにプールサイドに座っていた。
そこは丁度水深が1.6Mで、背の低い生徒は頭まで水に浸かる深さだ。
声を掛けようと一歩踏み出したとき、後ろから力が加わった。
それと同時に、雪架や秀弥が声をあげたのが分かる。
どうやら後ろから思い切り押されたようだ。
「っあ」
教師の怒声と共に、伊織の耳には水の跳ねる音が届いた。
そのまま、伊織の視界は水中へと切り替わる。
その時、確かに聞こえた。
「っ伊織!」
自分の名を呼ぶ、健斗の声が。