届けたい想い



【side健斗】



球技大会1日目を無事に終え、健斗はは取り敢えず寄り道する場所を考えていた。

いつもなら即行で家に帰るところなのだが、今日は何故かそんな気にはなれなかった。

最近登下校時に通るようになった公園。
彼処なら人も居ないだろう。


「誰かいる」


いつもなら、この時間には既に人はいない。
ここらでも過疎化が進んでいるのか。

最近では郊外に移り住む人が増え始めた。
そのため、この公園を利用する人も減ってきたのだ。


「……柏木」


好奇心のみで近付けば、そこに居たのは同じクラスの柏木伊織だった。

ずっと空を見上げ、何も言わずにブランコに座っている。
その姿を見た健斗は、何故か話しかけてはいけない気がしたのだった。

そっとしておこう。
そう思っているのに、頭では解っていても何故か足が勝手に近くへ向かおうとする。

なんとかその場に立ち止まり、健斗は物陰から伊織の様子を窺った。

暫くすると、伊織はゆっくりと立ち上がりその場を去った。


「……」


何も声を掛けられず、健斗は悔しそうに顔をしかめた。

あの時も、そうだった。
自分が声を掛けていれば、アイツは居なくならずに済んだのに。

そんな想いが、健斗の内から溢れ出た。


「あの時と…同じだ」


ゆっくりと呟いた健斗は、そのまま踵を返して走り去った。




“あの時、あの時、あの時……。”

“俺が声を掛けていれば、アイツは死なずに済んだ”


今もまだ。
この悔しさは健斗の精神から抜け出してはいなかった。



事は数年前に遡る。



――――……



2年前のあの日、彼女と別れたアイツが向かったのは、俺の家だった。

俺は丁度家を出たときで、あいつの姿も目に入っていた。

俺に用事があって来たのは知っていたが、その時は……あんなことが起こるなんて、考えもしなかった。

遊びに行かずに、あいつの悩みを聞いていれば。


“どうしたんだよ、――”

って、声を掛けていれば――…。



全ては、もう過ぎた事。
もう何を思っても遅いのだ。


アイツはあの後、自殺してしまった。

謝りたくても、もうアイツはこの世界には居ない。


せめて一言だけ。
伝えられるなら伝えたい。


こんな俺を許してくれ
済まなかった“祈織”――…。




まさか、アイツと同じ名前の女が同じクラスに居るなんて。

俺は流石に、この事までは予測できなかった。