色々あったものの、今日は球技大会本番だった。

放課後練習のお陰もあり、伊織のバドの腕も確実に上がっていた。

クラスTシャツに身を包んだ生徒達が、開会式を迎えるべく体育館に整列していた。
賑やかに言葉を交わしたり、お互いに鼓舞しあったりして球技大会を心待にしている。


「おはよう伊織。昨日は良く眠れた?」


まるで遠足前の小学生に聞くような内容を口にされ、伊織は思わず吹き出した。


「お陰様で」


笑いを堪えながらそう答えた伊織に、雪架は何か変なことを言ったかと首を傾げている。
どうやら今の一言が的確だと思っていたらしい。

必死に考えている雪架を他所に、伊織は整列を終了した。


「開会式を始めますので―…」


司会者と思われる人物が話し始めると、その場にいた生徒一同が静かになった。




『本日一試合目の競技は、バスケです。選手の方は本部前にゼッケンを受け取りに来てください』

開会式終了後すぐに流れた放送に、近くに居た男子が反応した。

どうやら彼は、バドで雪架とパートナーを組んでいる秀弥のようだ。


「よし。行くぞ健斗!」

「張り切りすぎ」


煩いし。
元気よく片手をあげた秀弥に対し、健斗はうんざりしたように言い放った。


その様子を遠巻きに眺めていると、伊織は誰かに後ろから声を掛けられたらしい。

振り返れば、そこには雪架が笑顔で立っていた。

“一緒に応援しようよ”
そのまま手を引かれ、二人はバスケの試合が行われる第2コートに来ていた。


「こっちのクラス、結構バスケ強いってさ」

「そうなの?」


スポーツ観戦にはあまり興味のない伊織も、クラスの男子達がやるのであればと応援することにした。

試合が始まるとすぐ、体育館は熱気に包まれた。
それと同時に、女子達の黄色い声も飛び交う。

当たり前のことだが、すぐに周りは生徒に囲まれた。





試合も中盤に差し掛かった頃、1組の男子が逆転を狙って勝負を仕掛けた。

背の高い男子からパスを受けた秀弥が、シュートを思わせる見事なフェイクをかける。

そのままドリブルで相手を巧みに避け、素早くボールを健斗にパスを出した。

ボールを受け取った健斗は、無駄の無い動きで相手を躱しそのまま3Pシュートを決めた。


歓声が沸き上がり、プレイヤー達は互いに喜びを噛み締めている。



「格好…良い…」