因みにどうして伊織が女子から冷たい視線を浴びているかと言うと。
健斗は実のところ、案外と優しいところがあるのだ。
他にも、たまに見せる笑顔など、クラスの女子からの人気を高める要素を隠し持っていたのだ。
「…次体育だけど…大丈夫?」
「問題無い」
すぐに着替えると、伊織と雪架は体育館に向かった。
準備運動を終えた生徒達は、すぐに各種目に別れて練習を始めた。
伊織はバドの練習をしようとラケットを手に取った。
雪架も一緒に練習しようとしたら、どうやら既にパートナーと練習していた。
「誰と練習したら良いのかな…」
「俺以外に誰とやるの?」
後ろから声を掛けられ驚いて振り返ると、そこには健斗が立っていた。
振り返っても顔は見えなかった。
何せ背が高いから、斜め上を見ないと顔が目に入らないのだ。
「え…伽藤君?」
「やらないの、練習」
そのまま半ば強引に手を引かれ、雪架のいるコートへと連れていかれた。
驚いた顔の雪架に一言断り、一緒に練習することにした。
「…うまく当たらない」
「落ち着いて、少しゆっくり振るようにしてみて」
言われた通りに振ってみると、面白いくらいに的確に当たった。
その後も色々なアドバイスをもらい、この一時間で相当上達できたのではないだろうか。
「覚えるの早い。教え概ある」
「有難う」
教室に帰る途中、後ろから肩を叩かれとこう告げられた。
褒められて純粋に嬉しかったため、伊織は笑顔でお礼を言った。
その日の放課後、伊織は高校の近くにある地域共有の体育館で練習をすることにした。
丁度予定の空いていた雪架と、あとは何故か雪架に巻き込まれたパートナーの二人。
不服そうな顔をしていた雪架のパートナーも、雪架の笑顔には敵わなかったらしい。
「伊織、始めた時より上手くなったね?」
「伽藤君が教えてくれた」
何でもない事のように話す伊織に、雪架のパートナーの男子が驚いたように声をあげた。
彼の名前は南野 秀弥(ミナミノ シュウヤ)。有働神経がよく才色兼備と整っている為、彼はクラス内だけでなく学年からも人気の高い生徒だった。
「どうしたの、秀弥君?」
「珍しいと思ってな」
意味深な笑みと共に呟いた秀弥は、早く練習をしようと促したのだった。