【side健斗】
水浴びは意外と疲れる。
たまには休憩も必要だ。
そう自らに言い訳をして、健斗はプールサイドに腰を下ろした。
小学生のようにプールではしゃぐ、歴とした高校生が視界に入る。
たまにクラスの女子が健斗に目をやるが、彼自信はそれを無視しているらしい。
気にも止めない様子で、水面を見つめている。
楽しそうな会話が耳に入り、健斗は声のした方へ目を向ける。
どうやら球技大会を経て仲良くなった三人が、プールについて語り合っているようだ。
三人と言うのは、伊織・雪架・秀弥のことだ。
それから目を反らすように、健斗は再び水面に目をやった。
そろそろ中に入らないと、教師が何か説教でもしてくるのでは。
そう考えた健斗がプールに入ろうとしたとき、何かを企んでいる様な笑みを浮かべた女子の二人が目に入った。
何か嫌な予感がする。
そしてその嫌な予感というのは、大体当たるもので。
警告を発しようと伊織の方を見やれば、既に時遅し。
待ち構えていたであろうもう二人の女子が、伊織を二人掛かりでプールへと押しやったのだ。
確か伊織は、先程泳げないと言っていたのを健斗は思い出す。
「っ伊織!」
そう思ったときには、健斗はプールに飛び込んでいた。
体育着を着ていることもあってか、伊織の動きは鈍かった。
すぐに近くまで行き、健斗は伊織を抱き抱えるようにして顔を水面に出した。
「大丈夫…?」
「問題無い」
気丈にそう答えた伊織の声を掻き消す様に、体育教師の怒声がプールに響き渡った。