それに・・・ただの通りすがり・・・。彼と恋人なのは心地よかった。ううん、戦争世界以外は、それぞれが穏やかに、でも確実に色んな方法で私は彼を愛していた。弟として、息子として、友達として。それらはそれなりにやはり心地よい。

 ・・・だって、会話になってるもの。

 千沙はそう思って、少しだけ笑う。ああ、やっぱり私の真ん中には、こんなにも巨大な寂しさがあったのね、そう思って。

 一人暮らしで、彼に振られて、家族といえば人形のピノキオだけ。これが、何かの魔法なんかじゃなくてただの夢なら・・・覚めた時、私はガッカリするかしら。彼女は目を閉じた。大切なピノキオ。だけど、あの子は人形。だから、話をしたりは出来なかった。今、こうして願いが叶って彼は人間に。

 ・・・夢であったとしても、そうか、私はピノキオとお話がしたかったんだろうって。

 寂しかったから、強烈に愛情をぶつけられる相手に感情をぶつけたのだ。この自分の中にある、大きな暗い穴を塞いでしまいたくて。

 この子と、話がしたかったから。


 千沙は目を開けて、ゆっくりと首を振った。

「・・・もういいわ、ピノキオ。君と話せない世界なら、一つで十分だもの」

 ピノキオが少し首を傾げた。それは寂しそうな顔だった。

「じゃあ、戻ろうか、僕たちの世界へ。もうすぐ話せなくなるんだ、だから言いたいことを、全部―――――――」