「おはよう、千沙。案外早く起きたのね~」

 下のフロアーに下りると、父親と母親が二人で紅茶を飲んでいた。母親におざなりな返事をし、千沙はスタスタと台所に入っていく。

 彼女の目下の目標は、悩み多き女子高生の上位くらいにくる項目、「バストアップ」である。自分でこっそりと情報を収集し、それには豆乳がいいと書いてあった雑誌を信じて、千沙はお小遣いで豆乳を買っては飲んでいた。

 そんなわけで、今日も豆乳をどばーっと大きなコップに注いで一気飲みをした。毎朝それをしなければ気がすまないのだ。それは恐ろしき習慣と呼ばれるものだった。

「ベーグル食べる?」

「あ、食べる」

「一哉はどうしたの?」

「自分の部屋じゃないの?」

 面倒臭く思って、彼女は簡単に答えた。父親が新聞紙から顔をあげて苦笑するのが視界の端にうつった。

「じゃあ用意するわ。顔洗ったら一哉も呼んできてね。あの子も朝食まだだから」

 母親の問いにうんと答え、次は洗面所へいく。

 起きたてのこの顔を何とかしなければ―――――――

 千沙は手を伸ばして、洗面所の明りをつけた。