「ねーちゃんが着替えてたって僕に影響ないでしょ。そんな男みたいな体して」

「なんてこというのよ!あんたは、全く――――――」

 腰に両手をあてて威嚇するのにも構わず、弟の一哉はキョロキョロと千沙の机まわりを物色しだした。

「一哉!」

「写真集だってば!明日返さなきゃならないのに、ねーちゃんのせいで僕まで見てないだろ」

 一哉が学校の図書館で借りてきた空の写真集、それがダイニングのテーブルにおいてあったので千沙が勝手に自分の部屋に引っ張り込んだのだった。弟はそれに関しての文句をいっている。面倒臭くなった千沙は、叱るのをやめて積み上げられた雑誌の底からその写真集を出してやる。

 この国の季節それぞれの空を切り取った写真集だった。もうちょっと見たかったのに、と残念に思いながら、千沙はそれを弟へ差し出した。

「ほら、これでしょ」

「そうそう、これこれ。ほら姉ちゃん、ありがとうは?」

「私が出してやったんでしょうがっ!!」

「勝手に持ちだしたんだろ!」

 いつもの兄弟喧嘩だ。こんな風にして一日が始まることも珍しくない。そのうち、いい加減にしなさいって母親の怒鳴り声が聞こえてくるだろう。千沙はそう思って、怒鳴られる前に出向こうと、階段に通じるドアを開けた。