千沙は目を開けた。

 そこは、薄いベージュ色した壁紙の、いつもの自分の部屋だった。その、シングルの自分のベッド。

「・・・ああ、よく寝たわ」

 布団の中でうーんと大きく伸びをして欠伸もする。ああ、本当に良く寝た、彼女はそう呟いて、満足そうに微笑む。

 黒髪の胸下まである髪の毛が絡まって、このままでは悲惨なことになると気付いて、ベッドをおりて櫛を手にする。

 窓の外は4月で快晴、今日も遠くのビル群が霞掛かって見える。小高い丘の一番上に立つ高層マンションの最上階、そこが千沙の家族が住むフロアーだ。千沙は自分の部屋の窓から見えるその遠く広がる景色が気に入っていた。

 今日は学校はお休みだ。カレンダーを見て、その上に指差しまでして確認する。今日は日曜日、もうちょっと寝ていればよかったのかもだけど―――――――――

 考えていたら、ドアが一度コンとノックされて、すぐに開いた。

「姉ちゃん!この前貸した写真集、早く返してよ!」

 ドアを開けたのは千沙の弟の一哉。二つ下の、ただ今生意気盛りの中学生だ。千沙はむっと顔を顰めて抗議する。

「こら!ノックするなら3回はしなさいっていつも言ってるでしょ?私が着替えている途中だったらどうすんのよ!」

 一哉は気にせずにせせら笑うように返事をし、そのまま部屋の中に入ってきた。