「空っぽの毎日だった。幸いだった事は、仕事が忙しかった事だな」
冗談っぽくそう言って、はにかんだ笑顔で笑った主任
それでも、私はその笑顔には答えてあげられなかった
「――そんな時出会ったのが、瀬川だった」
不意にでてきた自分の名前に、ぱっと視線を上げる
すると、どこか優しい表情で私を見つめる主任
そして、ゆっくりとバージンロードを歩きだした
「初めて会った時は、特に何も思わなかった。ただの新入社員ってね」
「――」
「だけど、他の新入社員と違った事が一つだけあった」
「違う..事ですか?」
コツ..コツと大理石の床を鳴らす主任
その背中を見て、小さく問いかける
「それは、誰よりも素直で真っ直ぐだった事」
少しだけ振り返って、そう言った主任の言葉を聞いて一気に顔が真っ赤になる
「真っ白で、汚れていない。真っ直ぐで正直な子。あ~こんな子もいるんだって、思った。それと同時に、自分がものすごく汚く見えた」



