すると、その瞬間我に返った様に一歩足を前に出した南様
そして、私の方に手を伸ばしかけた
「ちょっと、待てよ」
既に私達しかいないロビーに、南様の声が響く
でもその瞬間、再びグイッと腕を引かれて今度は前を歩いていた大西主任の背後に体を持っていかれる
まるで、南様から隠す様に
私と南様の間に立ちはだかった主任
大きな背中の向こうには、困惑した様子の南様の顔が見える
訳が分からず主任の背中を見上げるが、背後からは主任の顔が見えない
どこかピンと張りつめた空気の中
愛しい人の声が小さく響く
「俺はもう、二度と誰かに譲ったりはしない」
そう言った主任の声は、真っ直ぐで、少しの迷いもなかった
シンと静まり返るロビー
主任の言葉を聞いて、何も言わない南様に再び一礼した主任
そして
「行くぞ」
小さく私にだけ、そう囁いて
再び歩き出した
最後に見た南様は、どこか寂しそうに
それでも、優しく微笑んでいた
何もかも悟った様に――



