なのに・・・今私は男友達に5年間という長い時間恋に苦しんでいるのだからやりきれない。

あれだけ好きな人とは友達にならないと心に決めていたのに・・・

私、柚原 楓と山中 健吾は同期で入社以来何かと一緒にいた。
入社から5年、共に27歳になった今まで友情という名の距離だけがしっかりと近くなっていた。


愛情という名の距離ではなく・・


「楓、もう帰れるか?飯食って行かない?」

彼は仕事が終われば当たり前のように声をかけてくる。

行きつけの小料理屋【美好】で乾杯するのが私達の習慣になっていた。

お洒落なBARで片寄せ合って語ることだって憧れているのに・・・私達はいつもジョッキで乾杯する仲になってしまっていたのだから諦めるしかない。

「うん!今支度するね」

私は自傷気味に笑いながら帰り支度をして、いつも通り健吾と美好に向かった。

「お疲れ~」

「おう!お疲れ~」

お互い声をかけて、まずはビールで乾杯した。
美好のおばちゃんもいつも通り、『今日もお疲れ様ね~』とニコニコ微笑みながら注文した料理を運んでくれる。健吾も私もこの笑顔に会いたくて通い続けているのだ。
そしてお酒と食事を進めながら仕事の話、同僚の話で盛り上がり酔いがまわった頃に必ず出るのが、健吾の恋の話だ。

「なぁ、楓」

「なぁに?」

私は焼き鳥を口にしながら、健吾に目線を送った。

「人を好きになるって辛いなぁ」

お酒も進み、彼は心に潜んでいる想いを口にした。

「何言ってるの?辛くても好きなんでしょう?伊東さんに彼氏がいても諦められないのだからさ。」

そう・・・健吾は総務課の伊東さんに恋をしている。

私の好きな人は、恋に苦しんでいる。

そして私は、彼の恋の相談をいつも何食わぬ顔して聞いている。