「じゃあさ・・楓。うちの会社に転職して来ないか?」

「・・は?」

「楓がさ、今そいつと一緒にいるのが辛いなら俺と一緒に働かないか?」

「英輔と一緒に?」

一瞬英輔が何を言いだしたのか分からなかった、あまりに突然過ぎて。
驚いてポカンとしてしまったけど、英輔の表情は真面目に語りかけている。

「うん、俺は楓に再会できて話していて昔の感覚と同じでやっぱり楽しくてさ。楓に好きな人がいるって聞いて、頑張っているって聞いて応援してやりたい気持ちになったよ」

「ありがとう・・」

「でも元気ない顔見たり、寂しそうな顔見たりしたら気になってさ。そばにいて辛い気持ちで働くなら、少し離れてみたらどうかな?自分の気持ち見失う前に。離れてみて感じる気持ちもあると思うよ。うちの会社は輸入製品扱っていて、中途採用もしているから今まで営業職やってきた楓ならきっと採用されると思う。それに俺、楓と一緒に働けたらいいなって思っているし。どうかな?」

英輔の誘いにただただ驚くばかりで。
健吾のそばを離れて、英輔と一緒に働く?理解までたどり着かなかった。
でも、英輔が冗談ではなく真面目に言っているのは理解できた。

「ごめんね、ちょっと考えがまとまらなくて。転職するとか・・考えたことないからさ」

「うん、急がないよ。今度うちの会社のパンフレット渡すから、見るだけでもいいからさ」

「・・うん。でもさ、私やっぱり健吾と離れてみたほうがいいのかな?」

「このまま自分の気持ちも見えなくなったら、辛さしか残らないんじゃないかな。俺は楓の笑顔が見たいよ」

健吾のこと諦めたほうがいいのかなって思ったことはあっても、離れることは考えたことがなかった。
確かに今のままそばにいれば、辛いものばかり見たり感じたりしてしまうだろう。
伊東さんと付き合う日が来るかもしれない。
もし伊東さんのことを諦めても、またいつか好きになった人を目にしてしまうかもしれない。

それを私は我慢できるのだろうか?その前に離れたほうがいいのかな・・・

英輔の突然の誘いにかなり戸惑いながらも、気持ちの逃げ道として留めてはっきりと断れなかった。