「もう1杯作るかい?」

おばちゃんがにこにこしながら空のグラスを持った。

「ううん、健吾送って行かなきゃいけないし、今日はもうやめとく」

「そう、じゃあ奥で洗い物しているから何かあったら呼んでね」

そう言うと奥の調理場へ入って行った。
雑炊も食べ終わったのでそろそろ健吾を起こそうとカウンターに行き、コップにお水を注いで寝ている健吾
の横に立ちテーブルにコップを置く。

「健吾起きて、お水持ってきたからそれ飲んだら帰ろう」

健吾の肩を揺する。でも動かない。

「健吾、ねえ起きてよ」

もう一度肩を揺すって顔を覗き込むと、両腕に顔を伏せて寝ていたはずの健吾の前髪の隙間からこっちを見ている瞳が見えた。

「あれ?起きてる?」

聞いても何も答えない。
無感情に瞳を開いたままジッとこっちを見たまま動かない。
視線が重なったまま起き上がらない健吾を見て、寝ぼけているのかと思ってもう一度声をかける。

「ねえ、起きてるの?もう遅いから帰ろう。タクシー呼んでもらう?」

また肩を揺すりながら起きているのか確認しようと瞳を覗き込んだ時、健吾の顔を乗せていた右手が動いて私の左肩を掴んだ。

そして強い力で引き寄せられて唇がぶつかった・・・健吾の唇と。

驚いて動けず瞳も開いたままでいると、今ぶつかった唇が少し離れて言葉を放った。


「行くなよ・・・」


かすれた声でそう呟くと、肩を掴んでいた手が後頭部に触れて引き寄せられ・・

今度は優しく・・触れるように、唇を合わせてきた。