心地の良い木漏れ日の中、エテジアーナとイリアーナが手作りした焼き菓子や異国の珍しいお茶などを持ち寄る。
 大好きな家族と好物の菓子を楽しむ。それはラインアーサにとってお気に入りのひと時だった。
 ───しかしその瞬間はやはり突然に訪れた。
 突如中庭に不穏な空気が漂い、空間を歪めながら現れたその〝真っ黒な裂け目〟はイリアーナを引き込んだのだ。エテジアーナとラインアーサの目の前で。
 その日を境に、リノ・フェンティスタ各地では様々な事件や暴動が起きた。
 事の発端は、ルゥアンダ帝国の皇帝・闍隍(ジャコウ)が内乱を企てた事にある。ルゥアンダ帝国はマルティーン帝国と手を組み、他国を組み敷く為に様々な手を使った。
 猛反発したオゥ鉱脈都市は壊滅に追い込まれた。
 アザロア国は幼い姫を人質に取られ屈服。
 イリアーナは中立を貫くシュサイラスア大国を従わせる為に誘拐されたのだ。
 見兼ねた煌都パルフェの最高司祭とフリュイ公国の女公は、ルゥアンダ帝国を封印し闍隍(ジャコウ)本人を北の果ての大地へと封印するという措置(そち)を取った。
 現在も尚その北の大地には諸悪の根源が目覚める事が無い様にと、フリュイ公国の女公が自ら〝人柱〟となり封印を続けているという。