…色葉だって、驚いたはずなのに。…何も、言わないんだ。
穏やかで、落ち着いていて。
懐かしいことを語るかのように、目を伏せて話をする。
…それはまるで、すべてをわかっているみたいで。
「『なんでちゃんと見てあげないんですか』、『大切なんじゃないんですか』って…言われた。怒ってるんだけど、なんだか悲しそうでね」
…馬鹿だなぁ、ほんと。
唇を噛んで、僕は俯いた。
あんなにひどく、突き離したのに。
町田さんは本当に、何をしでかすかわからない。
突拍子もなく、常識とか配慮とかそんなものを無視して、一直線に行動する。
僕が失恋を引きずっているからって、まさか本人のところへ直接乗り込んでいくなんて。
一体誰が想像できただろう。
「みんな、誰のことかわからないって顔してた。私も最初はそうだったけど…『また一緒に、アイス食べに行ったらどうですか』って言われて」
すぐにわかったよ、と、嬉しそうに笑う。
…その場で、色葉にだけわかるように。
町田さんが今まで一度も僕の教室へ来なかったのも、きっとわざとだろう。
思えば、彼女とはいつも柚木と僕しかいないところで会っていた。



