ジュンアイは、簡単じゃない。





授業の二限目が終わった頃……、



私のお腹は、グーグーと音を立てていた。





「……。アンタ、さっきの授業…めっちゃお腹鳴ってなかった?」




「バレてたか……。」



「朝抜き?きんに限ってそれはなさそうだけど……。」


「…………。うん、胸一杯で…。」




「……は……?」



「イヤ、何でもないっす。」



「………。ふーん。」




モモちゃんは、不思議そうに…

首を傾げた。







「アレ?現国の教科書……ないわ。きん、私ちょっと…借りてくるね。」


「はいはーい。」







モモちゃんが教室を出ていくのを見守って。




自分の机の上に…


鏡を広げる。




それから、ヘアアイロンと……ヘアゴム、櫛に、ピン。



癖毛の長い前髪が、顔にまとわりついて…気になっていた。



朝、家でできなかったから…



ただ今より、アレンジタイム!










ひとまず…前髪をすくいとって、少々櫛で逆毛にすると。



その毛束をねじって…ピンで留める。



前髪ふわりと…、『ポンパドール』の…



完成!!








「お~……、クールだな、きん!極妻みたいじゃん♪」



力よ……、可愛いと言っておくれ……。







後ろ髪を、どうしようかと迷っていると……。








「きん、きん……!大変!」



血相を抱えたモモちゃんが、教室に戻るや否や……、


作業半端な私を、有無を言わさず引っ張って。




強引に……、廊下へと連れ出した。










「モモちゃん…、次の授業始まるよ?」



「サボりの常習犯が今更…真面目か!」



「うん、少し心を入れ替えようかと……。」


「はあ~?!」








だって……、少しくらい、彼に見合う女の子になりたい。


彼に軽蔑されるのだけは……何とか避けたいんだもん。






「残念だけど……、きん。既にアンタは…全校生徒の注目の的よ。」



「へ……?」





モモちゃんに連れて来られたのは……



掲示板の前。




「見てごらん。アンタたち…いつの間に、そういう仲に?」




集まっている生徒たちの、一番後ろから……



ピョンピョン、とジャンプして。





皆が見ている学校新聞を……なんとか、覗き見る。






「………………?!」



「あのほっかぶりジャージは……先週の体育の時だよね。」







なんと……記事の一面に。



デカデカと…写真が掲載されていて。






「………これは……。」





セナくんが……私の首もとに、顔を埋めている…写真!!







「金築って…3バカの一人でしょ?」


「何でこんなのが…瀬名くんと?!」



「何してんの、この女…!」




酷い言われようだけど……。

そうだよ、今までの私だったら、確実にそう言われるよね……。




ってか、匂い嗅がれただけだし!


私のほうが……被害者よ!







だけど……。



我ながら、お間抜けな格好だわ。


セナくんは、こんなに絵になるのに…



相手がこれじゃあ、ちょっぴり気の毒か。









「………。きん。何してるの……?」



「や。皆にバレないように、変装を……。」





私は……制服のブレザーを頭から被って。


目だけを出して……周囲を見張る。




「誤解だからね。モモちゃんには…言っとく。」





「まあそうだろうけどね?熱愛とか、こっちから願い下げだっての。ねえ、きん?」



「……え……。あ……、う、うん…。」




そうか……、モモちゃんに、まだ話してなかった…。




彼を毛嫌いしたままだったんだね…。