セナくんは、一歩一歩…、私ににじり寄る。
それに合わせて…、私は、後ずさる。
「『天才』?そんなの周りがそう言っているだけで、むしろ勝手なイメージをつけられて…迷惑してる。うわべしか見ていないって、証拠だろ?」
「………。そんなの…私は知らない。」
女子の悲鳴のような声が……
校舎に反響する。
それも、その筈…
近づいたセナくんが、私の首もとに…顔を埋めていたのだから…。
「……な、なな……、なに……?」
私は身体が硬直して……
棒のように、ただ、立ち尽くしていた。
「………同じ匂い。」
「……………?!」
彼はトンっと身体を突き放して。
ちょっぴりニヒルに……口角を上げる。
「最上級の嫌味だと言いながら、自分も一緒の匂いをさせるだなんて。マーキングのつもりか?猿オンナらしい低俗な発想だな。」
「……………!」
「大根役者の…猿芝居。お捻りでも欲しいのか?」
「……………。」
「ちょうど小銭位ならある。」
彼はジャージのポケットから何かを取り出して…
その手を、私の目の前に…伸ばす。
「………。何よ…、それ。」
「自販機で飲み物買おうかと思っていたけど…予定変更。……クリーニング代と称した…お捻り。」
「……………。いらない…、そんなの…。」
「余った金で、変装グッズでも買え。手拭い位なら買えるんじゃないか?」
完全に人を見下す…
上から目線の言葉に。
ついに、私の怒りは……爆発する。
セナくんの手を思いきり弾いて。
ギロリと……睨みつける。
ヒラヒラと舞った千円札が…
地面の上に落ちるころ。
「……最っ低………!」
バチンと乾いた音が……
よく晴れた、この青い空の下に………
響き渡る。
セナくんの綺麗な横顔…、その瞳を僅かに見開いて。
彼は私を…睨みつける。
「…………。……猿芸の練習よ。ムカつく人間を判別するくらいは…できるんだから。」
彼から目を逸らして……
そんな捨て台詞を吐くと。
「アンタこそ……、二度と私に構わないで。」
もう一言付け加えて。
一目散に……その場を逃げ出す。
ざまーみろ!
猿を馬鹿にした…罰なんだから!


