その場に立ち尽くす私達の周りには…
遠巻きに、視線を送ってくる生徒が…多数。
学校きっての天才と、
究極の馬鹿が対峙しているのだから…
それも、その筈だろう。
次第に、そのギャラリーの声が。
無言を貫く私達の間に…割って入ってくる。
「セナくん、今日すんごいイイ香りしてたんだけど……」
「マジ?どんな?」
「甘い…花の香りみたいな。すれ違った時にフワッと…!」
…………ん……?
香り……?
「アンタからかえってきたこのジャージのお蔭で、めまいしそうになった。」
腕に抱えた…セナくんのジャージ。
それに視線を落として。
彼は言葉を…続ける。
「なにこの匂い。」
どうやら…、私の体臭とかではないみたいだ。
ホっと…胸を撫で下ろす。
私はしばし考え込んで、
「……。……ああ!」
ポンと…手のひらをうった。
「そのまま返す訳にもいかないから…、洗濯した。」
「それだけ?」
「…………。…ああ!もしかして…、柔軟剤?」
お礼の意味をこめて。
ちょっと奮発して……
お値段高めの柔軟剤を…購入した。
他の洗濯物とは…別に。
私のジャージと、セナくんのジャージだけ……
高級柔軟剤仕上げ。
「いい香りでしょ?
なんと…、擦るとさらに香りが弾ける優れモノ♪」
自分のジャージを擦ってみると。
更にフローラルな香りが……
鼻いっぱいに広がる。
「………だから、余計に気持ち悪かったのか……。」
「………ハ……?ブーケローズの香りを馬鹿にしてんの?」
「………。」
「女子の皆さん、喜んでるじゃない。アンタの嗅覚どうなってんの?」
ふん、と鼻で笑ってやると。
セナくんくんは表情ひとつ、変えずに……。
「………。能無しのアンタにはピッタリかもな。どうせ頭ん中にいつも花を咲かせてるんだろう?呑気にアホっぽく。」
「……………!」
「気を回したつもりか?押し付けは…逆効果だ。これ以上ないくらいに、自分の評価を下げることを…アンタは少し、学習した方がいい。」
「……………。……わかってるよ。悪かったね。」
良かれと思って…したことだった。
それすら、アンタがお相手じゃあ…通ずることもない。
ホント、縁のない人なんだから。
一生…相容れない相手なんだから。
「………。皮肉っただけだよ、セナくん……。」
「……………。」
「また何か思い違いしてるみたいだけど、アンタに…ピッタリかと思って。…上部だけは華やかで、気品の高い孤高の存在に見えるけど。少し近づこうモノなら、平気で人を…傷つける。棘だらけの言葉で…こう、チクっと。」
「……………。」
「1度刺された棘は、そう簡単には…抜けない。だから、仕返しのつもり。つまりは…、最上級の嫌味なの。アンタの方こそ…学習すれば?人の心の…真意を見抜けないだなんて、天才の名が廃るよ。」
私は……
悔しかったのだろうか。
取ってつけたかのように…
次々と、心にも思ってなかったことを…話し続ける。
こんなに流暢に、言葉が溢れ出るとは…、
名女優にでもなれるかもしれない。
「……。………で?」
「………はいっ?」
「振られたからって…、腹いせの次は、説教か?」
「……………?!」
「よく言えたもんだな。未練だらけなクセに。」


