「へえ~、3年ってことは、もしかして知ってる人かもしれないね。今、倉橋くんしか同級生はいないんだよね。」
「ん。そう。その倉橋くんの友達だって。」
「誰か聞かなかったの?」
「うん。訳ありみたいだし、まだ決定でもないから…。」
「どーせわかるんだから、もったいぶることないのにねえ?」
「うーん?楽しみが半減しちゃうし、それでいいのかも?」
「アンタはほんと…お気楽なんだから…。」
ジャージを頭からかぶりながら、モモちゃんはふふっと…小さく笑った。
「きん、次グラウンドなんだから、しゃべってばかりいないで、早く着替えなよ~?」
「……………。」
散々根掘り葉掘り聞いてきたのは…そっちだろうよ。
同じスタートでも、私だけ遅くなるのは…いつものこと。
体育は得意なのに、どんくさい。
そう言われるのは……いかに要領が悪いかってことだ。
2つのことを、同時には出来ない…タチ。
ホント、自分って取り柄がない。
グラウンドに移動中…、さっきの話題の続きを話す私達の間に。
力が…割り込んできた。
「新しいオトコ…?誰……?」
「……………。さあ…。」
「さあって……呑気だなあ、これから毎日プライベートで顔合わせるんだぞ?気にならないのかよ。」
「………。力。………ウザイ男は嫌われるよ?」
モモちゃん、一刀両断…!
「………。なあ。きんはさー……。…………。」
「………何?」
「……やっぱ何でもない。」
「………?」
「力。ハッキリしない男は……嫌われるよ?」
「………モモ、そんなに嫌いなのか、俺のこと…。」
「愛情の裏返しだから心配しないで。ただ、やり方が……セコいのよ。」
「…………。手厳しいな、お前は。」
「………。まあね。」
「それより…、きん、今日は水曜日だぞ!」
「………?そうだね。」
「いいのか?」
「……?何が?」
「水曜日の体育っつったら、お前いつもうかれてたじゃん。」
「……ああ……。」
水曜日の体育。
少し早めに移動すると。
前の時間に体育をしていた9組の人達と…
すれ違うことがある。
一昨日までの私なら、間違いないなく……1番手で、ここまで来ていただろう。
……が、本日は。
のーんびり。
だって、もうそんなことする余力は……残されてはいない。
こてんぱんに、言われてしまったからなあ……。
「………。…アッ…!」
突然、力は声をあげて。
前方を…指差す。
「…え。どこっ?」
ついついつられて、私は…その方向へと視線を送る。
「……。うっそ。何でもありませーん。」
「え。なにそれ~…?」
セナくんがいるのかと…思ちゃったじゃん。
「お前、いつもこの水曜日…一体何を見ていたんだろうなー…?」
……ドキリ。
「そう言うアンタこそ、誰を見ていたんでしょうね?」
モモちゃんの冷静な一言に。
力は押し黙って…
並んで歩くそのペースを、一人緩めては…その場から、フェードアウトしてしまった。
「……ったく…、アホなんだから。」
「…………?」
「………!……アッ…!」
今度はモモちゃんが…小さく叫ぶ。
「もう、なにさ~二人して。もう、その手にはひっかからない………、……よ…?」
ふと、顔を上げて。
私は…フリーズする。


