この日、家に帰ってきた私は、一気に階段をかけ登り……。
自室にはいってすぐに、ガチャリと…カギをかけた。
「……………。」
鞄から取り出したのは……
セナくんの……ジャージ。
「………男の人の…汗の匂い。」
顔に近づけては、すううっと…息を吸ってみる。
「セナくん、体育の後だったから………。」
頭の中にポワワンと…
彼がグラウンドを駆ける姿が、浮かんで来る。
風をきって、爽やかに…。
額に光る汗が……
ポタリと………。
「…………。その汗がここに…?………キャ…☆」
ぎゅううっと握り締めて、足をバタバタさせるけれど……
そこで、はた、と…我に返る。
「…………確かにこれじゃあ…馬鹿丸出しか。」
忘れた訳じゃ…ない。
今日1日で、瀬名広斗という人が、どんなに性悪かが……わかったハズだ。
それでも。
長きに渡る憧れは、理性との狭間を行ったり来たりして……
感情を、上手くコントロールすることが…できない。
「目の下に…、ちっちゃいほくろがあったな…。カッコいいのに、かわいい………って、ちきしょー……、なに言ってんの、私。」
しばらく、にやけたり…イラッとしたりを繰りかえし。
妙な葛藤にいよいよ疲れてきた私は…。
「勉強しよう、勉強っ!!」
しまいにゃ…我を失ったらしい。
試験日直前以外には滅多に座らない勉強机に…向かっていた。
取り合えず、すぐに出来ることといえば。
英単語の…暗記くらい。
単語カードを取り出して、始めから順を追って…
捲っていく。
「……お。ここ、モモちゃんとやった所だ。………『unexpected』は……、『予期せぬ』…?」
カードを…裏返す。
「当たった!次は……と、『offend』。……?なんだったっけ?」
また…、カードを捲る。
「ああ!『~の気分を害する』ね。………ん?待てよ……?」
『予期せぬ』……?
『~の気分を害する』……?
ここにもうっすらと………
予兆アリ。
何だか、まるで……暗示のようだ。
「……これ……、運命…みたいじゃない…?」
なんて…おめでたい性格だ。


